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「uno」 サンプル



「どうしたんです?もう終わりですか?」
薄汚れた瓦礫だらけのコンクリートの床に這い蹲る男の背中を踏みつけながら吐き出した声は、自分でも驚く程に冷たく温度を欠いたものだった。
呆気ないものだと思う。
目と目があった一瞬、直感のようなものでこの男なら自分を満足させてくれるかもしれないと感じたのだが、どうやらそれは期待外れだったようだ。
『君程度の人間ならいくらでも葬ってきた』
そうは言いながらも、男の目を見た瞬間に感じた何かは確かなものだと思っていた。
-----楽しめると思ったんですけどね。
隠せない落胆に理不尽な苛立ちさえ感じる。
今迄に幾度も味わってきたそれは、けれど期待していた分余計に強く感じて仕方が無かった。
-----このまま終わりにしましょうか。
何処にそんな力があるのか、口先では無い(けれど自分には物足りない)強さを持った男の痩身の背中をぼんやりと視界に捉えながら、謳うように胸の内でそう呟く。
そう思いながらも、しかし一思いにという感情は微塵も無かった。
もう充分に痛めつけたつもりだったが、湧き上がる加虐心は治まることを知らない。
自分でもそれが異常な性癖であることは分かっていた。
それでも抑えきれない高揚感に背骨を踏みしめた足に徐々に力を込めていけば、
「う゛……ぐ、ふ…っ」
漏れる呻き声によりいっそう興奮を煽られて、圧する力がさらに強いものへとなっていくのをますます止められなくなる。
このままもっと力を込めて背骨と肋骨をまとめて全部折ってしまうのもいい。
折れた骨が肺に刺さって、血を吐きながら苦しみ悶える姿を見るのは堪らない愉悦だ。
それとも、その細い綺麗な指を一本ずつ順番にへし折っていこうか。
無様に折れた十指を目の前に晒した次は、腕を片方ずつ折ってしまおう。
使い物にならなくなった腕をだらりとだらしなく下げた体を無理やり立たせれば、まるで操り人形のように踊り出すに違いない。
そんな体を揺らして蹴り上げてまた殴って。
吐き出す血反吐に真っ赤に染まる様を眺めるのもまた一興。
簡単に手折れてしまいそうな細首に両手を回して、じわじわと締め上げていくのもいいかもしれない。
なまじ力のある男のことだ。
敗北と抑圧を知らない男の屈辱と恐怖に歪むその顔は、きっと見ものに違いない。
「クフフフフ…」
抑え切れない興奮に体が昂ぶっているのを感じる。
この一瞬が堪らない。
どうやってこの手で殺めるか、それを決めるこの一瞬にどうしようもなく興奮して全身が瘧のように震えた。
他者の死はただそれだけでこの身に甘美な悦びを与えてくれる。
それを以って、己の生を感じる瞬間でもあった。
すんなりと指に絡まる絹糸のような黒髪を鷲掴みにして思い切り背後に引けば、仰け反るように喉笛を晒しながら、力無く俯いていた血だらけの顔が眼下に露になる。
切れた唇の端はこびりついた血が赤黒く固まり、そうして先程床に打ち付けたせいで割れた額からは、今尚鮮血が溢れて頬から顎へと赤い血筋を作っていた。
鼻につく血の匂いを甘いと感じるようになったのはいつからだろうか。
もう記憶にも無い、遠い昔のことだ。
気付けば、いつも自分のまわりには血が流れていた。
全てはあの日から始まり、そしてその終わりは何処までも先が見えない闇のように、暗く、遠い。
今はもう思い返すことも少なくなったあの頃をふと思い出し、その光景を掻き消すように目の前の顔に意識を戻す。
と、そこには自分だけを真っ直ぐに見返す鋭利な刃のような黒い双眸が存在し、そうしてそれに何故かふと、安堵にも似た何かを感じた。
-----…?
自身でも分からないそれに微かな疑問を感じながらも、けれど次の瞬間にはまるで無意識のうちに、再び、容赦ない力で掴んだ髪ごと頭部を床へと勢いよく叩き付けていた。
「…ぅ゛っ」
鈍い音と共に漏れる呻き声は、かつて同等のことを強いた人間とは比にならない程に小さく抑えたものだった。
何度も何度も、額を皹だらけのコンクリートに擦りつけるように押し付けても、それでも雲雀の口から漏れる声は微々たるもので、それは力を加えている骸自身、到底信じられるものでは無かった。
一体この細い体にどれ程の耐性があると言うのか、その精神力の強さは驚くばかりだ。
いっそ賞賛に値する。
悲鳴の一つでも、泣き声の一つでも上げれば可愛げがあるものの、血に濡れた唇から漏れる声は時折声にさえなっておらず、それを堪える為にきつく噛み締めた唇が色を失っているだけだった。
大の大人の男でさえ泣き叫ぶ程の暴力を与えているのだからその体に感じる痛みは相当のものだろうに、それでも雲雀は頑なに、声を上げることはおろか、息すらも漏らすまいと体を強張らせ続ける。
「随分と強情だ」
大抵の人間なら早々に根を上げる程の仕打ちに、何故こうも耐え続けることが出来るのか、甚だ理解出来ることでは無かった。
かつて自分が経験したそれは、その先に目的があったからこそ絶え偲び、そして乗り越えることが出来たのだ。
だがこの男の先には敗北以外何一つ存在しない。
敗北と同時にこの痛みから解放されるというのに、それでも指一本満足に動かせない体で抗い続ける意味は無い筈だ。
それ程この男にとって敗北を認めるということは赦し難いこととでも言うのだろうか。
だとしたら、とてつもなく高い自尊心と矜持だ。
-----ますます壊したくなる。
ぞくぞくと込み上げる悦びに、骸は意図したことではなくゆわりと笑みを浮かべていた。





膝を折り、床に両手を付いて息を乱し、数え切れない程の暴力を与えたせいで血や埃で薄汚れたシャツを纏った体の背後から腕を伸ばすと、隙が無く結ばれているネクタイの結び目に指を入れ、そうしてゆっくりと、わざと緩慢な仕草でそれを解いていった。
「…ッ」
息を詰めて体を暴かれる屈辱に顔を歪めながら、それでも抵抗出来ない手足をただ奮わせて絶えるしかない雲雀の横顔を至近距離で見詰め、首元から抜き取ったネクタイをはらりとその視線の前に見せ付けるようにして落とす。
指先を離れ、まるで息があるもののように緩やかな弧を描いて床に落ちたそれを横目に、今度はきっちりと喉元まで留められている釦へと指を伸ばした。
力任せに左右へと引いて、ぼろきれのようにその生地を引き千切るのもよかったが、そうすることよりもさらに屈辱的であろう方法を敢えて骸は選択した。
一つ一つ、上から順番に丁寧にそれを外していく。
釦が外れていく毎に耳元を擽る噛み締める奥歯の音が大きくなることに、堪らない愉悦を感じた。
雲雀程の男が自分の意思に反して、それも本来ならば抵抗することも容易い手管で服を脱がされていく屈辱は、きっと耐え難いものに違いない。
徐々に露になる白い胸元を覗き込めば、怒気のせいか、僅かに上気して桜色に染まっているのが見える。
すぐにでもそれに触れてみたい衝動を抑え、ゆっくりと焦らすようにして最後の釦を外すと、いっそ恭しい程の手付きでそのシャツを脱がしていった。
「…っ」
そうして最後まで脱がさずに手を止めた眼下に現れたその背中に、思わず息を飲み込む。

-----何て美しい。

感嘆の声を漏らさずにはいられない程、その背中は実に美しいものだった。
繰り返し与えた暴力で数多の痣がそこには散っているものの、それさえも美しさを際立てるもののように感じる程、目もあやに白く、そしてしなやかな半身に目を奪われずにはいられない。
くっきりと刻まれた真ん中の背骨のラインや、羽根の痕と称される陳腐な謂れすら信じてしまいそうな、なだらかに隆起した肩甲骨の突起、そして僅かに捻った脇腹に浮かび上がる肋骨の連なりと、そのどれもが一つの芸術作品のような完璧な美しさを放っていた。
否、完璧と呼ぶにはそれは不完全過ぎる。
成長途中の少年の体は細く脆弱なものだったし、決して完成された美しさでは無い。
けれどそのアンバランスな未完全さを純粋に綺麗だと思ったのだ。
そうしてわけもなく、それに欲情した。
細くても、痩せぎすの自分とは違う、しなやかな少年らしい体だ。
それが大切に庇護されている立場にある者のものだということは一目見ただけで分かった。
一見粗野に見えて、その実所作の一つ取ってもどこか育ちの良さが伺い知れる。
強さを礎にしたそれとは違う、滲み出るような高慢さもその証だ。
当たり前に我が儘を通せる立場にいる者だけが持つことの出来るその気概に、そして何の苦も知らずに育った綺麗な体。
ファミリーでの粗雑な扱いや逃亡生活を強いられていた自分には無いそれがひどく羨ましいと思ったのはけれどほんの一瞬で、すぐにそれは抑圧された感情の解放へと繋がれていった。
無性にこの体を傷つけたいと思ったのだ。
何人にも傷つけられたことが無いだろうこの体に(そうでなければこんなプライドを持てないはずだ)自分だけの傷をつけたくて堪らなかった。
-----そうだ、めちゃくちゃにすればいい。
自分だけがこの体に触れることが出来た証の痕を幾つも残して(注ぎ込んで)、そうして自分という存在をこの男の体に刻み込んでしまえばいい。
そうすればきっと。
-----きみは僕だけのものになる。





湧き上がる充足感に相反した一抹の不安にも似た感情を忘れるように、今度は、覆い被さっていた体を伸び上げて羞恥に染まりながらも真っ直ぐに自分を射竦める双眸を間近に捉えると、掌の代わりに割り入れた膝頭で押し上げるような刺激を性器に与えて雲雀の息を乱れさせた。
「く…ッ」
苦しげな声は今や快感の為だということが明らかで、けれどそんな声を漏らしながらも羞恥に堪えるように時折唇を噛み締める頑なな態度に、気付けば自然と股間を刺激する膝の動きは激しいものへと変わっていった。
「は…ッ、ん…ぅっ」
「…は……っ」
布地が擦れ合う衣擦れの音に、どちらともつかない荒い息遣いが重なるようにして薄暗がりの中に響く。
小さな顔の脇に両手を付き、浅く開かせた下肢の間に割り込ませた膝でぐいぐいと押し上げるような刺激を続けると、投げ出された指先が縋るものを探すかのように力無く蠢き、そしてコンクリートの床を爪先がやる瀬ない所作で引っ掻き始めた。
途中で脱がせることを止めてしまったせいで中途半端に肌蹴たシャツの合間から覗く胸の尖りは、まるでその存在を主張しているかのように触れてもいないのにぴんと勃ち上がっている。
涙で潤んだ瞳や、噛み締めていても徐々にだらしなく開いてしまう唇は零れた唾液で濡れて、最早その体が快感に流されていることは明白だった。
そうしてその体が放つ壮絶な色香に息を呑みながら、それまで以上に強く膝を押し上げた瞬間、
「ッ!」
撥ねるように雲雀の細い腰が浮き上がり、押し付けた膝にまで中の性器がびくびくと奮えながら精液を吐き出す感触が伝わるのが分かった。
途端にじわりと布地が熱く湿り気を帯びていく。
射精したのだと分かっても尚押し付けた膝での刺激を執拗に続けると、ぐちゃぐちゃと濡れたを音を立てながら雲雀の体がぶるぶると震えるような微弱な痙攣を繰り返した。
「は……っ…」
そして乱れた呼吸を繰り返しながら何度も跳ね上がる体が漸く床に沈むと、弛緩した体は壊れた人形のように四肢を投げ出したまま動かなくなった。
ただ激しく上下する胸元が生きている証を伝える。
だがよく見れば開いたままの両足は微かに震えていて、その衝撃の強さを今尚表していた。
見下ろす眼下の顔はいっそう濃い桜色に染まり、虚ろに空を見詰める漆黒の双眸は泣き濡れて今にも溶けてしまいそうだった。
ふと、ついと溢れた涙が一筋、切れ長の目尻からこめかみを通って黒髪の中に消える。
そうして濡れた睫毛が瞬きを一つ落とし、再び露になった黒い瞳が真っ直ぐに自分へと向けられた瞬間、
「…ッ!」
そこに再び火を灯したように宿った憎しみと怒りという色に、全身が総毛立ち、微かに残っていた最後の理性の糸が完全に切れる音を聴いたような気がした。




以上、9/15発行「uno」本文サンプルでした。
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