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 『dieci』

先日のリアルマフィアで無料配布した、骸ヒバ前提のディノヒバSSです。
10年後設定になります。
原作の未来編のちょっと前くらいでしょうか。
イタリアの真っ青な空と、真っ青なアドリア海と、そして豪奢なキャバッローネの屋敷を書きたくて書いたお話です。
ちなみに既刊「uno」以降、骸は雲雀の前には一度も姿を現していません。
10年もの長い間会わずして想い続けることなんて出来るのかと思われるかもしれませんが、実際ハタチ過ぎれば10年なんてあっと言う間なんですよね(笑)
それにしても、やたらディーノさんの美貌っぷりを描写してしまいました(笑)
雲雀も骸も容姿としてはすっきりめのイメージなので、ディーノさんの華やかさは書いていて楽しかったです。
勿論基本は骸ヒバなんですけど。
三つ巴はこれの続きになる予定です。

ちょっと長めになりますので、本文は以下をクリックして下さい。

 『dieci』



豪奢なシャンデリアが午後の陽光を反射させて煌めく下。
眼下に拡がるアドリア海を見下ろしながら、翡翠を思わせる緑が溶け込んだような青い波間に見知った瞳の色を思い出しては、雲雀は知らず知らず眉を潜めていた。
-----青は嫌いだ。
海の青も、空の青も、何もかも。
青という色は嫌でもあの男の存在を思い出させる。
細かい装飾掘りが施された石造りのバルコニーの向こう、まるで何色もの青い絵の具を溶かしたような海を睨み据えるように、けれど逸らすことも出来ずにただ見つめながら、今尚忘れずにいる男の顔を思い浮かべては、溜息にも似た吐息を悩ましげに零すことを繰り返す。
穏やかに吹き込む潮の香りが混じる風は心地よい筈なのに、馴染みの無い異国の地ということもあってか、どこか落ち着かなかった。
所在無さげに、けれど傍から見ればいっそ堂々とした佇まいでそこに立ちながら、雲雀は抜けるような青空とそれに続く海へと視線を向けたまま、男の到着を待っていた。
元々此処へ来るつもりなど無く、半ば強制的に連れて来られた上に、呼びつけておきながらもう既に十分以上も待たされていることに、雲雀の苛立ちは増す一方だった。
手土産にリングの一つでも貰わなければ割に合わない。
-----やっぱり咬み殺してしまえばよかった。
それを狙ったのか、人で溢れる街中ではさすがに暴れるわけにもいかず、やむを得ず彼の部下の運転する車に乗ったことに後悔し始めた頃、
「恭弥っ!」
だが、そんな物騒な思考は、不意に耳に飛び込んできた自分を呼ぶ声に中断させられた。
視線を向けると、眩いばかりの金髪を風に散らしながら、こちらへと駆けて来る男の姿が目に映る。
聞き慣れたその声に名前を呼ばれることも、今はもうすっかり慣れてしまっていた。
そんな他愛のないことでも、この男の存在が自分の中で当たり前に大きくなっていることを嫌でも実感する。
甚だ不本意ではあったが、今の雲雀にとって、この男、キャバッローネファミリー十代目ボスであるディーノは、近しい人物の一人と言えた。
「恭弥!」
会う度に大袈裟な程のストレートな感情表現を見せられているせいか、大きく広げた長い腕に抱き締められる寸前、
「!」
それよりも早く、風を切る音と共に迫り来る顔面擦れ擦れの位置に繰り出したトンファーで易々とそれを阻止すると、心底うんざりとした表情で間近に迫った金色の瞳に射るような視線をぶつけた。
「あなた、何度言ったら分かるの?そういうのはやめてって言ってるでしょ」
彼程の男が全身に漲る鬼気を感じない筈も無く、殺気立った雲雀に気圧されながらも、それでもディーノはその口元に笑みさえ湛えて、眩しいものでも見るように甘ったるく目を細める。
「そういう恭弥こそ、何度言ったら俺の気持ちを分かってくれるんだ?」
トンファー越しでそんなことを囁いたところで色気の欠片も感じられないというのに、いつだってこの男は懲りずに同じ言葉を繰り返し向けてくるのだから迷惑極まりない。
けれど重要な情報元でもあるディーノとの関係を切ることも出来ず、結果、顔を合わせる度、毎度の如く同じやり取りを繰り返していた。
それが十年もの間続けられているのだから、彼の変わらぬ行動力はいっそ賞賛に値する。
とは言え、それに応える気など雲雀にはさらさら無いのだが。
「人を呼び付けておいて待たせるなんていい度胸だね」
繰り出したトンファーを引きながら当てこするようにそう言えば、途端に見事なまでに整った美麗な顔が情けなく歪む。
「悪かったって。急に大事な相手から電話がきちまっていけなかったんだ」
「ふうん…散々人のこと口説いているくせに僕より大事な相手がいるわけ」
「なっ、それとこれは違うだろっ、仕事上の話に決まってるじゃねえかっ」
揶揄の意を込めた言葉に、馬鹿みたいに慌てて弁明するディーノの姿に、溜飲が下がる思いで雲雀は僅かに口端を上げた。
本当のところ、そんなことはどうでもいい瑣末な問題だ。
寧ろ早いところディーノにそんな相手の一人でも出来ればいいとさえ思っている。
それなのにそんなことを言うのは、自分よりも一回り近く年上の男が慌てふためく姿を見せるのが面白いからだ。
「それより何なの?わざわざこんなところまで呼び出して」
近付き過ぎた彼からさりげなく距離を取るように、バルコニーに向かって置かれた贅沢なビロード張りのソファーへと優雅に腰を下ろすと、無駄の無い仕種で長い脚を組み、答えを促すように顎を上げディーノへと視線を向けた。
こうして見れば、なるほど、確かに歳の割には綺麗で整った顔をしているのだと改めて思う。
逆光に透ける髪は見事なまでの金色で、同じ金色のけぶるような長い睫毛の下の双眸もとろけるような蜂蜜色をしている。
彼の部下がその容姿を誇らしげに語るのも分からないではない。
マフィアのボスには似つかわしくない様相は、普段のカジュアルな服装ではなく、今日のようにノーブルなスーツを着こなしていれば何処の御曹司かと見間違う程だ。
容姿に引き寄せられるように彼に言い寄る女の数は星の数とも言われ、その数多の中には、同盟ファミリーは勿論、社交界でも名の知れた良家の令嬢までいると聞く。
そんな彼のきらびやかな美貌は、美醜にさしてこだわらない雲雀でさえ観賞に値すると思う程だった。
それだけでなく、彼のボスとしての資質も言葉にこそしたことは無いが密かに認めていた。
尤も、
「恭弥に会いたかったからに決まってるじゃねえか」
こんな下らないことを言わなければの話なのだが。
そもそも聞くところによれば、ディーノ自身は特別同性を恋愛対象とする嗜好というわけではないというのだから、自分なんかに言い寄る彼の行動や言動は到底理解出来るものではない。
おまけに、
『おまえだけなんだぜ、ボスがあんなに一途に想ってるのはさ』
だからいい加減折れてやってくれよ、などと無用にボス思いの部下に言われたところで、甚だ迷惑なだけの話で雲雀の知ったところではないし、そもそもマフィアのボスが男に言い寄っていることに何の疑問を抱かないのか、それこそが疑問だった。
とは言え、不本意ながらも自分が求めている存在も同性であるのだから、それは雲雀に言えることでも無い。
「暫く会えなかったから、寂しかったんだぜ」
「…あなたね」
自然と零れる溜め息すらディーノには関係ないらしい。
腰を折り、長身を屈めて覗き込むその顔には、およそ男の自分に向けられるには不似合いな甘い微笑が浮かんでいた。
女ならそんな笑みを見せられて堕ちないものはいないに違いない。
それほど見事な美貌と笑みだった。
本音を言えば、雲雀とて、一度たりとも惹かれなかったと言えば嘘になる。
初めてこの男が自分の前に現れたあの日、まず目を奪われたのがこの美貌だった。
影のような黒を好む自分とは対照的な、全身が光を放っているようなその眩さに、随分と派手な男だと思いながら、それでも決して嫌悪感を感じることは無かった。
純粋にそれを綺麗だと思い、そして秘めた強さに惹かれた。
だがそれでも。
こうして鑑賞に値する程の美貌を間近に見詰めながら、太陽のように華やかなそれを眩しいと思いながらも、それとは対象的な、まるで温度を感じさせない氷のような怜悧な顔を思い浮かべてしまうのだから仕方がない。
それに群れることを嫌う雲雀にとってディーノとの関係は、煩わしいと思うことはあっても、決して望むべきものでは無いとわかっていた。
無条件に甘えられるだろう年上の男の傍は存外居心地がよく、それ故に女のように優しく守られるその場所を受け入れることは、雲雀自身の矜持がそれを許さなかった。
馴れ合うような関係に興味は無い。
求めているのはもっと殺伐とした、欲望だけをぶつけ合うそんな関係だ。
だからこそ、十年もの間その存在だけはいつも何処か近くに感じながらも、ただの一度も顔を会わせていないたった一人の男の存在を今も忘れられないでいるのだ。
あの男だけが自分の歪んだ欲望を満たすことが出来る。
優しいだけのこの男には決して出来ないことを、あの男ならきっと笑いながら自分に与えるに違いない。
あの時気付かされたこの性癖をもう認めないわけにはいかないことは、雲雀自身がよく分かっていた。
「会いたかったぜ、恭弥」
「…本当にそれだけ?」
甘い声で繰り返される言葉に、真っ直ぐに自分を見詰めるだけの顔を見上げながら確かめるようにそう問えば、
「大事な用だろ? 」
まるで愚問だとばかりにディーノが薄い唇を吊り上げる。
「それにお前、こうでもしないと会ってくれないだろう」
「用なんかないからね 」
即答する雲雀の言葉にも、ディーノはただ薄く笑むだけだった。
その笑みに、途端に込み上がる怒りを抑えられなくなる。
まるで何もかも見透かしたようで気に入らない。
そうして次の瞬間には、
「馬鹿じゃない?やっぱり一度咬み殺してあげる」
再びトンファーを手に立ち上がり、その切っ先をディーノの横っつらへと容赦ない力で繰り出していた。
だが、
「ッ!!」
鈍い衝撃と共に瞬時に反応した黒い鞭に絡みつかれてそれを止められ、目的は果たせずに終わる。
ぎりぎりと革と鉄が擦れる感触に、雲雀はゆわりと口端を上げた。
この感触は好きだ。
余計なことを考えず、ただ熱く滾る身の内の欲望だけに任せることが出来る。
この高揚感が堪らない。
ディーノと連日顔を突き合わせて牙を向け合ったあの日々は、純粋に愉しいと思える日々だった。
あの頃と違う今の環境では、血を見ることも久しくなった。
-----久しぶりに、血が見たい。
不穏な殺気を感じ取ったのだろう。
「全く、相変わらずお前は手が早いな」
呆れたように苦笑を浮かべながらそう言うディーノの言葉には、昂ぶった雲雀の気を宥めるような意が含んでいるのが分かる。
雲雀とて、本気でディーノを血祭りに上げるつもりは毛頭無い。
それにこの男の秘めたる力が一筋縄ではいかないことは、手を合わせた雲雀自身が誰よりも知っている。
だから、その意図を酌んだ。
「…あなたこそ、歳の割にはやるじゃない」
「なっ、歳って、お前」
動揺を隠さずに情けない声を上げるディーノの姿に、雲雀は喉の奥でくっと笑った。
だがすぐに、
「体力は衰えていないみたいで安心したよ」
血を見たい衝動に、-----負ける。
「また昔みたいにあなたをぐちゃぐちゃにしたいな」
そうして興奮で乾いた唇を濡れた舌で舐めあげ湿らせると、再びトンファーを握る手にじわりと力を込めた。
その感触を感じ取ったのか、絡みつけたままの鞭にも僅かに力がこもるのを感じた。
「と、とにかく話をしようぜ」
「あなたと話すことなんて何も無い」
ディーノの申し出を一蹴し、今まさに踏み込もうとした瞬間、
「六道骸の情報があるって言ってもか?」
不意に飛び込んできた思わぬ男の名前に、僅かに雲雀の手に握られていたトンファーの切っ先が鈍る。
「………」
途端に強張る雲雀とは対照的に、ディーノの顔には微かに自嘲めいた笑みが浮かんでいた。
「…わかりやすいくらいに変わるんだな」
「何、どんな情報?早く言いなよ」
揶揄するような声に無性に苛立ち、雲雀は口早に問いただす。
だが、
「無いぜ」
「…?」
「そんなものは無い」
淡々と紡がれる言葉に漸くそれが嘘だったということを理解すると、無言でトンファーに渾身の力を込め、絡みついた鞭ごとディーノの体を吹き飛ばしていた。
「いって!っとに、容赦ねえなお前は昔からっ」
大きな図体で悲鳴のような声を上げるディーノを無視して、もうこれ以上話すことは無いとばかりに雲雀は無言の背中を向ける。
無様に床に転がった男のことなど、もうどうでもよかった。
この地にももう用は無い。
すぐにでも此処を発つつもりだった。
だがそんな雲雀の思考をまるで読んでいたかのように、
「日本に帰っちまうんだろ?」
不意に背後から伸びた長い腕に捕われ、そして耳元に囁くような甘い声を聴いた。
「その前に会いたかったんだ。俺も忙しくて今日しか無かったから」
華奢な肩ごと抱くように回された腕はしっかりと胸の前で組まれ、逃さないとばかりに力を込められる。
背中に感じる高い体温と、引き締まった腕の感触、それに鼻腔を掠める仄かに香る甘いフレグランスの匂いに、自分が今抱かれている男が他でも無い、ディーノだということを強く感じた。
そしてそれは、決して自分が望んだものではない。
だが、長い腕に抱きこまれたまま、雲雀はその感触に淡い充足感を感じていることを否定出来ずにいた。
望んではいなくとも、望まないものでもない。
それは、あの男の存在を忘れずにいられない反面、こうしてディーノを傍に感じる度に強くなっていく感情だった。
受け入れるつもりなどは無い。
けれど抗えない誘惑が、そこにはあるようが気がするのだ。
「そういう情報は一体何処から仕入れるわけ?そもそもこっちに来ていることだってあなたになんか言ってない」
即座に振り払わなかった腕をやんわりと漸く解いてそこから逃れると、十年前に比べれば僅かに近くなったものの、それでも今尚自分よりも高い位置にある美貌の顔に視線を向ける。
自分だけを見詰めるその瞳に、いっそ流されてしまえばどんなに楽だろうか。
思ったところでどうにもならないそんなことを考えながら、雲雀は唇を歪めて自嘲気味に笑った。
-----本当に、どうにもならないのに。
いつまでも、十年前から変わらず自分の心はあの男に捕われたままだ。
「ねえ、どうやって調べたのさ」
それも彼の情報網の広さからだと思いながら問えば、
「お前の腹心が教えてくれたぜ」
返されたディーノの言葉に、俄かに雲雀の表情が曇る。
思い当たらないわけが無い。
群れることが嫌いな雲雀が唯一側に置いている男だ。
「何かと使えるから置いていたけど…咬み殺しておかないといけないみたいだね」
昔程自分の周りに集まる人間を無下に拒絶することは無くなったとは言え、それでもやはり、必要以上に他人と接することを今でも厭う雲雀にとって、その男の立ち位置は譲歩して与えた場所だった。
その意味を履き違えているのか、理由は何にせよ、自分の行動を他人に洩らしていい筈が無い。
-----戻ったら咬み殺しておこう。
「おい、草壁に当たるなよ。ロマーリオと話が会うみたいだから、それを利用してちょっとこう、うまく聞き出してるだけなんだから」
自分の部下だけでなく、雲雀の部下にまで気遣うディーノの言葉に思わず呆れる。
よくそんなことでファミリーのボスなんかが務まると思うところだが、それが彼のボスたる所以なのだろう。
「すぐに日本に帰るのか?」
「もう此処にいる用は無いからね」
「まだ、探しているのか?骸を」
「……」
今日二度目の名前に、雲雀は僅かに片眉を上げただけだった。
だが内心では違う。
十年前のあの時から変わらない。
あの男の名前を聞くだけで、じわりと奥底から熱い感情が込み上げて、俄かに平静ではいられなくなる。
それを知っていてその名を口にするのだから、この男も大概性質が悪い。
微かな動揺を隠すように、睨めつけるように視線を上げた視界の中。
不意にその距離を縮めて近づくけぶるような金髪に一瞬目を奪われた次の瞬間、
「…っ」
確かな感触が唇に掠めるように触れていった。
そうして蕩けるように細めた甘い眼差しに捕えられ、漸く、自分がディーノに口付けられたのだと知る。
じわりと熾火のように拡がる不可解な感情に、表情を無くしたガラス玉のような目で、目の前の熱を宿した双眸をただじっと見つめた。
こうして何の許可も無いまま、不意打ちのように口付けられることは今日が初めてでは無い。
そうさせる隙が自分にあるのかと言えば、完全に否定出来ないのが正直なところだった。
だからこの男は嫌いなのだ。
いつか本当に流されてしまいそうな自分自身に不安を抱かせ、そうしてそれとは間逆に、この男の全てが皮肉にもあの男を強く思い出させる。
-----もっと、冷たかった。
触れる唇の温度さえ、求めているものは違うのだと感じさせられた。
温かいその感触より、体温を感じさせないあの男の唇の感触を今でも忘れられずにいることに、雲雀は自嘲するように唇を歪めた。
たった一度、あの日のことを思い出すだけで、今でも体が芯から疼く。
それは十年前からずっと変わらずに続いている。
否。
むしろ強くなっている程だ。
-----だからなのかもしれない、この男に流されそうになるのは。
この疼きを鎮めてくれるのなら、何だって構わないとさえ思うことがあるのだ。
本当の意味で、身の内に篭る疼きを治めることが出来るのはあの男だけだと分かっていても、束の間でもいい、それを忘れさせてくれる何かに縋りたいと思ったことは一度や二度ではなかった。
だがそれでも、簡単に流されるつもりもまだ無い。
「何度言わせれば気が済むの?あなたを好きになるなんてことは一生無いよ」
はっきりと拒絶することで自分に言い聞かせるようにした雲雀の言葉に、
「そんなのは分からないだろ?」
けれどディーノはと言えば、少しも変わらない甘ったるい顔でそう微笑うだけだった。
繰り返し甘い言葉を聞かされ、そうして繰り返し与えられた甘い口付けに辟易しながら、眉間に深い溝を刻んで鼻白んでみせたところで当の本人はいつだって何処吹く風だ。
そんな男だからこそ、雲雀も本当の意味で抗うことが出来ずにいる。
「この十年、ずっと同じことを言ってきたつもりだけど?」
「ならこの先もずっと同じことを言い続けるよ」
「それが迷惑だってことが分からないの?」
「想い続けるのは自由だろ?それに俺が諦めたらそれで終わりだ」
十年前から決して揺らぐことの無いその言葉が、やけに胸に響いた。
「…恭弥の心の中にいるのがあの男だけだって分かっていても、それでも想い続けるくらいは…許してくれよ」
真摯な瞳で射るように真っ直ぐに見詰められて、僅かに雲雀は息を呑む。
こんなふうに感じるのはこの男だけだ。
この男の傍は居心地がいい筈なのに、時々こうしてまるで首元に細い蛇が絡まっているかのように、息が出来なくなる程に苦しくなる。
それが何なのかは分からない。
-----分かりたくもなかった。
「…勝手にすれば」
素っ気無くそう呟きながら、踵を返してディーノへと背中を向ける。
もうこれ以上、此処に留まる理由も無い。
足早にそこを離れようとすると、慌てた声が背後から聞こえた。
「恭弥、待てよ。送る」
「いらない。あなたの運転の車なんか乗ったら生きた心地がしないからね」
耳に届く声を黙殺して、雲雀は長い廊下の大理石の床に靴音を響かせながら歩みを進める。
そうして十年前から少しも変わらない熱い視線を背中に感じながら、同じ十年もの間、その姿さえ見ることが叶わない、今も何処かで見ているかもしれない男の顔を思い浮かべ、嘲るように微笑った。


もういい加減、あの男を捜すだけの日々には飽き飽きしていた。


end
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