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『蒼天の吉日』



「景儀?」

寒室を出て渡り廊下を歩いている途中、濡れた髪を鬱陶しげに払う後ろ姿を見かけて藍思追はその名を呼んだ。
振り返ったのはやはり藍景儀だ。

「髪が濡れたままじゃないか。朝からどうしたの?」

今にもぽたぽたと雫が垂れてきそうなその姿に、ちょうどこれから静室に届ける為に抱えていた手ぬぐいを一枚渡す。

「……冷泉に行ってきた」

妙に真顔でそう返す姿は、どこか不貞腐れているようにも見える。

「冷泉?こんな朝っぱらから?」
「沐浴だ」

憮然とした顔は、しかしとても沐浴で精神が浄められたとは言い難い。

姑蘇の朝は冷える。
水に浸かるにはまだ早いせいか、血の気を失ってわずかに紫色になった唇をへの字に曲げた藍景儀は、受け取った手ぬぐいで濡れた髪を挟むと乱暴な手付きで拭き始めた。

「朝から沐浴なんて珍しいね」

卯の刻起床、亥の刻就寝が家規で定められている藍氏だが、年若い子弟たちが皆が皆それに慣れているわけでも真面目に遵守しているわけでもない。
時には羽目を外すこともあれば、先達の目をかい潜って規則を破ることもある。
中でも藍景儀はどちらかと言えば夜ふかしをする方で、朝は寝穢く、少しでも長く寝ていたい方だということを藍思追は知っている。

そもそも今朝は自分の代わりに静室に書簡を届ける役目を言いつかっていた筈だ。
それを思い出し、

「景儀、沢蕪君から託された書簡はもう届けた?」

藍思追がそう問いかけた途端、藍景儀の眉が面白いくらいに吊り上がった。
そうして濡れた手ぬぐいを藍思追の手に押し付けると、

「届けた!静室にはもう行かないからな!」

声を荒げてくるりと背を向け、渡り廊下を勢いよく駆けて行ってしまった。

「景儀!」

藍思追の声が虚しく響く。
そんな勢いで駆けて藍啓仁や先達に見つかろうものなら間違いなく罰を受けると思ったのも束の間、音もなく駆けていく後ろ姿に、思わずといったふうに藍思追は苦笑を浮かべてその背中を見送った。
普段からじっとしていられない性分の藍景儀にとって、家規に触れずに足音もなく駆けることなど造作もない。
藍景儀にはいらぬ心配だった。



さらさらと揺れる竹林の葉擦れの音を聴きながら、藍思追は影竹堂の門を潜り抜けた。
雲深不知処の中でもとりわけ静謐を湛えるこの場所は、驟雨の後の少しひんやりとした清々しい朝の空気に包まれている。
軽やかな白鶺鴒の囀りが耳に心地よい。
そんな囀りに耳を傾けながら階を上がり、静室の前に立つと、藍思追はきっちり三度戸を叩いてから、

「含光君、御膳を下げに参りました」

そう呼びかけた。
程なくして、閉ざされたままの戸の向こうから藍忘機の低い声が届く。

「構わぬ。入ってよい」

自ら戸を開けないということは、開けられない状況にいるのだと藍思追は悟った。
そうして同時に、先程の藍景儀の態度にも合点がいく。
思わず口元に笑みを浮かべた藍思追は、 

「失礼します」

そう声をかけてから静かに戸を開けた。
障子越しの陽光が差し込み、朝餉の汁物の匂いがほのかに残る室内には、思った通りの光景が広がっていた。

布帛の帳の向こうで、まだ眠りから抜け出せていない魏無羨が藍忘機の肩に凭れたまま前後左右にゆらゆらと揺れている。
かろうじて里衣を身につけてはいるものの、豊かな髪の隙間から傾けたうなじが覗くほどに襟元は緩み、無造作に膝を立てて僅かに捲れた裾からは白い足首が覗いている。

卓の上の盆にはまだ半分ほど残っている汁物の椀と、葉物の皿、殆ど口を付けていない粥の椀が置かれたままだった。
箸も匙も盆に置かれている為、最早食す気も無いようだ。
もともと朝からあまり食べる方ではないが、粥一杯を食べられないくらいのよほどの睡魔なのだろう。

「魏嬰、起きよ」

藍忘機が幾度となく呼びかけ肩を揺すっているが、それは徒労に終わり、魏無羨が起きる気配は一向にない。
言葉にならない呻き声を上げてただひたすら眠りの中に落ちようとしていた。
しまいには藍忘機の肩に額を擦り付け、完全にその体は弛緩してしまった。

「魏嬰……」

ずるずると姿勢が崩れていく魏無羨のあまりのしぶとさに、さしもの藍忘機も僅かながら困ったように眉を寄せている。
けれど決して無理に起こすわけでもなく、根気よく体を揺すり、呼びかけることを繰り返していた。

そんな藍忘機の姿に藍思追は思わず笑みを浮かべる。
藍忘機の些細な表情の変化が自分にも分かることが嬉しかった。

藍忘機に育てられたと言っても過言ではない藍思追は、物心がついた頃から側にいた藍忘機の無表情にはすっかり慣れていた。
そもそも魏無羨と共にいた頃、夷陵の町で初対面の藍忘機の脚にしがみついたり膝に登ったりと遠慮なく懐いていたらしいので、もともとさほど気に留める子供ではなかったのだろう。
おぼろげながら沢山の大人に囲まれていた乱葬崗での幼少期を思い返せば、人見知りとは無縁だったのかもしれない。

しかし慣れていたとは言え、感情が読み取れたかと言えばそれはまた別の話だ。
少しも機微を感じられない顔の藍忘機に藍氏の規律を教わり、文字を教わり、時には兎の群れに放り込まれたあの頃は、全く表情が読めず、わけが分からないことが殆どだった。
藍忘機のもとで長く時を過ごし、父のように慕い、一介の修士として僅かばかり己の力を誇れるようになった頃にはほんの少しだけ読み取ることが出来るようになっていたが、それも微々たるものだ。

ただ幼い頃から変わらず藍思追にも分かるものが一つだけあった。
それは憂いの表情だ。
自分を律し、粛然とした藍忘機が時折見せる何処か哀しげで寂しそうな表情だけが、今も記憶に残っている。

そんな藍忘機が少しずつ機微を表すようになったのは、魏無羨との邂逅を果たしてからだ。
あの日、大梵山から魏無羨を雲深不知処に連れ帰ったその時から。
そうして遊歴に出た魏無羨が戻り、ここで居を共にするようになったその時から。
藍忘機の表情はそれまでと変わらず無表情に見えても、それまでよりも分かりやすく、いくばくかの感情の色が見えるようになったのだ。
こと魏無羨のそばにいる時にはやわらかい表情を浮かべることが多くなった。
それだけで魏無羨という存在が藍忘機の心を動かす唯一無二の人なのだと分かる。

そんな二人がこうして寄り添っている姿は藍思追にはとても微笑ましく見えるのだが、藍景儀には少し違って見えたのだろう。
確かに、いつも僅かな肌も見えないほどにしっかりと黒衣を着込んでいる魏無羨の、無防備で隙だらけの朝の姿を初めて目にした時は藍思追も驚いたものだ。
普段は手甲に覆われている細い手首や、靴を履いて見ることの無い素足の白さは、日に焼けた肌とはあまりに対照的で妙な気持ちになったのを覚えている。
こうして日々の静室や、二人の夜狩に同行した際の宿で幾度となくその姿を見るうちに藍思追は慣れてしまったのだが、藍景儀はまだそうではないのだろう。

『距離感がちょっとおかしいんだよ』

いつだったか、そんなふうに言っていた藍景儀の言葉を思い出す。

『別にいつもくっついてるわけじゃないけどさ、時々何かこう、あの二人ってやけに近いっていうか、普通そんなに触れないだろと思うくらい近かったりさ』

もともと魏先輩は気軽に触れるのが多い人だけど、と続ける藍景儀の顔は何とも形容し難い奇妙な表情を浮かべていた。
照れているような怒っているような、それでいて何処か神妙な面持ちで、

『でも含光君はそんな人じゃないだろ?』

そう言う藍景儀に自分は何と返しただろうかと藍思追は考えた。
きっと、

『それがあのお二人だからいいんだよ』

そんなことを返したに違いない。
そしてその気持ちは今も少しも変わらない。


ふと、視界の端で藍忘機の白衣が身じろいだことに気付き、藍思追は沈思していた顔を上げた。

「魏嬰、もう行く」

何処か名残惜しそうに自分の肩から魏無羨の頭を退けると、藍忘機はゆっくりと立ち上がった。
支えを失ってゆらゆらと揺れる魏無羨の肩に手を置き、一度その揺れを止めてから、藍思追へと視線を向ける。

「己の刻には出る。それまでには起きるだろうが支度を調えさせよ」
「承知しました」
「朝餉だけは食べさせるように」
「はい、心得ています」

そう言い置いて静室を後にする藍忘機を見送り、抱えていた手ぬぐいをいつもの箪笥にしまうと、藍思追はよしとばかりに気合を入れて魏無羨へと向き直った。
任せられた責任は重大だ。
何しろここからが一番大変だということを藍思追は知っている。

まだゆらゆらと揺れている魏無羨のそばに歩み寄ると、まずは藍忘機がそうしていたように何度か肩を揺すった。

「魏先輩、朝餉はきちんと召し上がってください。まだ葉物も汁物も残っていますよ。粥なんて手をつけていないじゃないですか」

食事の途中で移動した為か、卓の反対側に配置された椀や皿を魏無羨の前に移動させると、藍思追はその肩を支えて卓の方へと体を向けさせた。
渋々といった体で従うように体の向きを変えたものの、しかし腰から上の向きが変わっただけで座している腰から下はそのままだ。
捩れた体勢に変わった拍子に、魏無羨の体は今度は仰け反るように天井を仰いでしまった。
細い首筋と喉元が露わになる。
おざなりに結い上げられた髪は乱れ、里衣の襟元は隙間だらけで骨が浮いた薄い胸元が覗いている。
帯を締めていない腰は薄布一枚を隔てているだけでその細さが目立ち、極めて無防備だ。
寝乱れたままのその姿は、雅正を重んじる藍氏ではなかなかお目にかかれないほどだらしがない。

峻厳な者が見れば思わず眉を顰めたくなるようなその姿を、しかし藍忘機が無理やり正すようなことはなかった。
勿論、魏無羨が雲深不知処に来て始めのうちは幾度となく正そうと試みたのだが、結局どうやっても変わらず、静室や出先の宿では魏無羨のしたいようにさせているのが今は常だった。

だが人目につくような場では、苦言を呈し、立ち居振る舞いを律することもある。
魏無羨の自由闊達な性分や人となりを否定することなく、しかし魏無羨の評判を落としかねないことは良しとしない。

道侶同然と言われ、傍から見れば何くれとなく魏無羨の世話を焼いているように見えるが、その実、藍忘機が必要以上のことに手を貸すことはない。
藍忘機自ら食事や沐浴の湯を運んだりするものの、身支度などは自分でさせているし、魏無羨もそれを当然としている。

藍思追にはそれが好ましく思えた。
決して甘やかすわけではなく、けれどとても大切に想っていることが分かる。
二人の絆を考えれば、至極当然のように思えるのだ。

しかし藍景儀にはそうは見えないらしい。
ここのところやけに二人を見て妙に落ち着かない素振りを見せることが多くなったのは気のせいではない筈だ。
かと思えば何かにつけて雲深不知処にやってくることが増えた江宗主を見て、二人は道侶同然なのだから邪魔をするなと険を向けるのだからよく分からない。

あの二人の間に入れる者などいる筈もないのだが、魏無羨に近しい人が現れるのがどうにも気に入らないらしい。
三月ほど前、歐陽子真がやって来た際も妙に険のある顔を向けていた。
彼とは共に夜狩に行く際などは仲良くしているのだが、こと魏無羨が絡むと態度が変わるから不思議だ。
言うなればそれは、思慕を寄せる兄を取られる弟のような感覚なのだろうか。
そう考えると藍景儀の言動が随分と可愛らしく思えるものだ。

そんなことを考えているうちに魏無羨の体はますます傾いてしまっていた。
慌てて肩に手を置き、また根気よく声をかけながら揺することを繰り返す。

「魏先輩、ほら起きてください。巳の刻には出立しますからのんびりしていたら間に合いませんよ」
「うーん……」
「今日は含光君も一緒に夜狩に行く約束でしょう。楽しみにしていたじゃないですか」
「うん……そうだったな」

漸く返事が返ってきたのでこの調子だ。

「今日の宿は天子笑の有名な酒蔵が近くにありますし、邯鄲では地元の名酒が飲めるそうですよ」

今回の夜狩先である清河南西部の邯鄲山中は雲深不知処からだいぶ離れている為、巳の刻には出立して一旦姑蘇の麓の町で宿を取る予定だった。
藍氏所有の屋敷を宿として、夜は町の酒舗で食事を取る。
それから蘭陵を経て、黄河を渡り、五日をかけて邯鄲へと向かう。
最近、彷屍が頻繁に現れるという聶宗主からの依頼を受けての夜狩だ。
事案の内容も藍思追ら子弟達だけの手に余るものと見られ、旧知の間柄ということもあって藍忘機も同行することになったのだ。

魏無羨が自分たちに付きそうことは数あれど、藍忘機も同行することはそう多くはない。
かつては逢乱必出と呼ばれた藍忘機も、仙督となった身は想像以上に多忙を極める。
そんな藍忘機と夜狩に行くことになり、昨晩から魏無羨が妙にはしゃいでいたことを藍思追は知っていた。
こうしていつもは起きている筈の無い時間に起きているのも、ひとえにその為だ。

しかしそれでもどうにもこうにも襲い来る睡魔には抗えないらしい。
高揚していた分、昨夜はいつも以上に就寝も遅かったのかもしれない。

「叢台酒ですよ。天子笑にも引けを取らない白酒だって楽しみにしていたじゃないですか」
「……そうたいしゅ……そうだ、遊歴中に飲んだがなかなかあれは美味かった」

さすがに酒の力は絶大だ。
饒舌になりだした魏無羨に、藍思追はここぞとばかりに追い打ちをかける。

「そうです、叢台酒です。早く支度を整えないと邯鄲に到着するのも遅くなりますから、味わう時間も無くなってしまいますよ」
「それは困るな……」
「でしたら早く朝餉を召し上がってください。しっかり食事を取らなければ夜狩で保ちません」
「思追……、叢台酒はな、口あたりがまろやかだが香りが強くて……楚々とした天子笑とはまた違う味わいで……」
「魏先輩、今はまず朝餉ですよ」


そうやって早く起こしたい藍思追とまだ寝ていたい魏無羨が一張一弛の攻防を続けていると、

「魏先輩、まだですか!」

突然、何の前触れもなく賑やかな声と共に静室の戸が開き、一陣の風のような勢いで藍景儀が飛び込んできた。
藍景儀の突飛な行動に慣れているとはいえ、不意打ちで現れるとさすがの藍思追も驚いてしまう。
しかし静室にはもう行かないとつい先程大きな声で宣言したにも関わらず、舌の根も乾かぬうちから此処に現れた藍景儀の顔を見て、藍思追は思わず吹き出してしまった。
藍忘機が執務に戻ったことを確認したのだろう。
静室にいるのが魏無羨だけだと分かっているからこその行動に違いない。

「うーん……何だ……また景儀か、うるさいぞ……俺はまだ寝ていたいんだ……」

突然響いた騒々しい声に漸く頭が動き出したのか、眉間に皺を刻んだ魏無羨が頭を掻きながらぶつぶつと呟いている。
その様子はいつもの柔和な顔と違って何処か不機嫌そうにも見えるが、しかし藍景儀も今度ばかりは容赦をしなかった。

「いいから起きてください!朝餉の膳が片付かないでしょ!ただでさえいつも遅くて配膳係の手を煩わせているんだから、こんな時くらいちゃんとしてくださいよ!」

捲し立てるようにそう言いながら、またずるずると崩れていきそうな魏無羨の腕を取って引き摺り上げる。

「じんいー……もうちょっと優しくしてくれ……」
「十分優しいでしょうが、ほら早くっ!それにさっきは起きてたじゃないですか。何でまた寝ているんです?はーやーくーっ!」

細身ながらも自分よりも遥かに上背のある魏無羨を引き上げるのは至難の業だ。
それが痩躯の少年であれば尚のこと。
脱力しきった体の重力に逆らえず、魏無羨共々今にもひっくり返りそうな様子に、思わず藍思追も手を差し伸べると、二人がかりでぐいぐいと魏無羨の体を引き上げた。

「魏先輩、もう起きてください。巳の刻に出立ですから間に合わなくなってしまいますよ」
「そうだ、今日は夜狩だって言ってただろ。いつも暇そうにしてるあんたの出番なんだよ」

何だかんだ言いながら、藍景儀も魏無羨と夜狩に行くことを楽しみにしていたのだ。
藍忘機が同行する時の魏無羨は特に機嫌が良く、いつも以上にいろいろなことを教えたがる。
それが藍景儀には嬉しく、勿論、藍思追も嬉しいし、他の子弟たちも皆いつも喜んでいた。
藍忘機がいることで緊張感があるのも事実だが、羨望の対象でもある藍忘機を藍氏の子弟が厭うはずもなく、眼の前であの見事な剣技や琴技を見られることを誰もが楽しみにしている。

しかしそんな喜びなど微塵も感じさせない顔で、卓の上の椀を見た藍景儀は更に眉を吊り上げ、声を大きくした。

「あ、あんた全然食べてないじゃないですか!食事は残さず食べること、こればっかりは魏先輩もちゃんと守るように含光君に言われてますよね?」
「もう食べただろ……」
「汁物ちょっとだけじゃないか、こんなの食べたと言わないよ。出された食事は全部食べる、基本だろ。あんたただでさえ細いんだし、しっかり食べてください!」
「……景儀、お前は小姑か」
「誰が小姑だ!」

口煩く言葉を連ねる藍景儀に、鼻の頭に皺を寄せて魏無羨が鼻白む。
しかし次の瞬間には口端を上げ、どこか不敵な笑みを浮かべると、

「細いっていうのはお前みたいのだろ。この腰、俺の手で掴めるじゃないか」

そう言って藍景儀の腰を勢いよく両手で掴んでしまった。

「あ、やめろよ!」

途端に腰を捩って逃げ打つ藍景儀に、魏無羨は回した手を今度はわさわさと擽るように動かし始めた。
漸く目が覚めたのか、じゃれ合うように藍景儀をからかい始めた魏無羨がけらけらと笑い声を上げる。
藍啓仁が見たら卒倒しかねない騒々しさだ。
最早手を貸す必要のなくなった藍思追は、そんな二人の様子を微笑みながら見つめた。

魏無羨は太陽のような人だと思う。
藍思追は魏無羨の笑った顔が大好きだった。
朗らかで明るい陽光のような笑顔はその場の空気さえも変えてしまう。
この人のそばにいれば安心だと思えるし、何かあってもこの人がいればどうにでもなるような気がする。
そしてそれは藍忘機も同じだ。
魏無羨の隣には藍忘機がいて、藍忘機の隣には魏無羨がいる。
それが当たり前であることがとても嬉しかった。
この穏やかな時がいつまでも続けば良いと願わずにはいられない。 



そうして暫くの間、雲深不知処には似つかわしくない賑やかな声が静室に響いていた。

明け方の驟雨の跡はもうすっかり乾いている。
さらさらと葉擦れの音を立てる青々とした竹林の先に広がるよく晴れた青空を見上げ、朝から思いがけない力仕事をして暑くなった藍思追は、うっすらと額に浮かんだ汗を手の甲でそっと拭った。
ついこの間ようやく春が訪れたばかりだというのに、今日はいつになく日差しが眩しい。
まだ夏と呼ぶには少しばかり早いが、暑くなりそうな空だった。


今日もまた、雲深不知処の一日が始まる。








50話以降のcql 忘羨(字幕版)です。
まだ何もない知己。
「驟雨の朝」の続きで、藍思追視点のお話です。
魏嬰を起こす為に小双璧が悪戦苦闘しています。
遊歴から戻って1年後くらいの春のお話。

衝動で「驟雨の朝」を書いたので、後からいろいろ書いていくと矛盾が生じてしまい、少々困りました。
すっかりお眠の魏嬰になっていたのですが、よく考えたら起きて戸を開けていたしそれなりにまともな会話もしていたと気づいて、いやいや一度起きた後が実は大変ということにしました。
諸々、多少の違和感は目を瞑ってください。
魏先輩と小双璧がわちゃわちゃしているのが好きです。

cql藍湛は原作のようには魏嬰を甘やかさないのではないかと個人的に思っています。
天子笑を買って来たり、魏嬰好みの香辛料を買って来たり、欲しいものは何でも与えて、何くれとなく世話を焼いて、絶対的に魏嬰を守るけど、でも基本的な身支度とかそういうことは自分でやらせて必要以上に手を貸すことはないかなと思うのです。
髪紐が緩んでいたりしたら触れるかもしれませんが、最初から髪を櫛ったり結ったりはしないと思います。
でも食事は運ぶし、着替えの衣は用意する。
でも着替えに手は貸さない。
でも緩んでいたら襟を直すくらいはする。
それくらいの距離感です。
但し魏嬰が負傷すると途端に距離感がおかしくなる。
食事も基本的に残さず食べさせるというのは絶対に譲れないところで、魏嬰の為の厳しさも持ち合わせていて、魏嬰も自分を思ってのことと分かっているので口ではいろいろ言いながらもそこは煩わしいとは思わないのだろうなと。
45話でだらしなく座る魏嬰に「きちんと座れ」と苦言を呈す藍湛が印象的で、人目のある場所では魏嬰の為に厳しくもあるのだなと思いました。
そんなcql藍湛が大好きです。
知己超えをしたら髪を結うくらいはしそうですが、まだまだ知己です。

こちらもpixivに投稿済みです。
前作の渇欲とは比べものにならないくらい健全です。
そして自分でもどうしたのかと思うくらい毎日ぽちぽちしています。
忘羨を書くのが楽しい。
pixivに投稿し始めてちょうど1ヶ月になりますが、7作品の観覧が13,000回を超えていて驚きました。
フォロワーさんも増えて、ブクマやコメントも頂けて本当に嬉しい限りです。
人さまに読んで頂ける喜びを感じています。
cql忘羨、大好きです。


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